【用語】鉄鋼用語集(3)焼入れ、焼戻しおよび時効 2
用語 | 意味 | 英語表記(参考) |
オースエージ |
過冷オーステナイトをMs点以上の温度で時効する処理。 例えば、ある種の析出硬化系ステンレス鋼(SUS 631など)に対し、Ms点の調整などの目的で行う。 |
ausaging |
マルエージ | 極低炭素合金マルテンサイトを時効によって硬化させる操作。 | marageing |
ブルーイング |
鋼の外観及び耐食性を改善するために、適当な温度の空気、水蒸気又は化学薬品にさらして、その表面に鉄の酸化物皮膜を生じさせる操作。又は冷間加工による鋼線や冷間成形後のばねなどの残留内部応力を減少させ、弾性を高めるなどの目的で行う低温加熱。 表面は、加熱温度によって黄色又は青色に変化する。 |
blueing |
焼入性 |
鉄鋼を焼入硬化させた場合の焼きの入りやすさ、すなわち、焼きの入る深さと硬さの分布を支配する性能。 焼入性は、通常、焼きの入る深さの大小で比較するが、それには焼入性試験方法〔JIS G 0561[鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)]〕を用いると便利である。 |
hardenability |
焼入性バンド |
同一鋼種の化学成分及び結晶粒度のばらつきによる焼入性曲線のばらつきの範囲をバンドで表したもの。 Hバンド(H band)ともいう。 Hバンドが定められた鋼をH鋼という。 |
hardenability band |
焼入性倍数 |
合金元素を添加したときの理想臨界直径と、添加しないときの理想臨界直径との比。 焼入性倍数は、一般に合金元素の添加量と共に増加する。 |
multiplying factor |
質量効果 |
質量及び断面寸法の大小で、焼入れ硬化層深さの異なる度合。 質量及び断面寸法のわずかな変化で、焼入硬化層深さが大きく変化することを、質量効果が大きいという。 |
mass effect |
自硬性 | 焼入温度から空気中で冷却する程度でも、容易にマルテンサイトを生じて硬化する性質。 | property of self hardening |
冷却能 |
焼入れに用いる冷却剤の冷却能力。 H(severity of quenching)の値で表すことがある。 |
cooling power |
臨界冷却速度 |
鉄鋼の焼入れの際、マルテンサイト変態を生じるのに必要な最小の冷却速度。 マルテンサイトが初めて生じる最小の冷却速度を下部臨界冷却速度(lower critical cooling rate)といい、マルテンサイトだけとなる最小の冷却速度を上部臨界冷却速度(upper critical cooling rate)という。 |
critical cooling rate |
臨界直径 |
与えられた冷却速度に対し、中心部のマルテンサイト量が50%になるような鋼材の直径。 通常、Dcの記号を用いる。 |
critical diameter |
理想臨界直径 |
理想焼入れ(焼入剤の冷却能を無限大と仮定した場合の焼入れ)したときの臨界直径。 通常、Diの記号を用い、焼入性の比較基準とする。 |
ideal critical diameter |
等温変態 | 鉄鋼をオーステナイト状態からAr点以下の任意の温度まで急冷し、その温度に保持した場合に生じる変態。 | isothermal transformation |
等温変態曲線 |
鉄鋼の等温変態の様相を、縦軸に温度、横軸に時間(対数目盛)をとって図示したもの。 IT曲線、TTT曲線又はS曲線ともいう。 |
isothermal transformation diagram |
連続冷却変態曲線 |
鉄鋼をオーステナイト状態から連続的に冷却した場合に生じる変態の様相を、縦軸に温度、横軸に時間(対数目盛)をとって図示したもの。 CCT曲線ともいう。 |
continuous cooling transformation diagram |
オーステナイトの安定化 | オーステナイトが安定化されて、マルテンサイトへの変態が起こりにくくなる現象。 | stabilization of austenite |
残留応力 |
外力又は熱こう配がない状態で、金属内部に残っている応力。 熱処理のときに、材料の内外部で、冷却速度の差による熱応力又は変態応力が生じ、これらが組み合わされて、内部に応力が残留する。 また、冷間加工、溶接、鋳造などによっても残留応力を生じる。 |
residual stress |
焼入応力 |
焼入れで生じる残留応力。 焼入応力には、内外部の冷却の時間的なずれに起因する熱応力と、変態に伴う変態応力とがあり、一般に両者が組み合わされて生じる。 |
quenching stress |
焼入変形 | 焼入によって生じる形状又は寸法の変化。 | quenching distortion |
焼割れ | 焼入応力によって生じる割れ。 | quenching crack |
置割れ |
焼入れ又は焼入焼戻しした鉄鋼が放置中に生じる割れ。 自然割れともいう。 |
season crack |
軟点 | 焼入れで局部的に生じる完全には硬化しない部分。 | soft spot |
焼戻し硬化 | 焼戻しで硬化する現象。 | temper hardening |
二次硬化 | 焼入鋼を500~600℃付近で焼戻しする際に再び硬化する現象。 | secondary hardening |
焼戻し脆性 |
焼入れした鉄鋼をある焼戻し温度に保持した場合、又は焼戻し温度から徐冷した場合、脆性破壊が生じやすくなる現象。 500℃前後の焼戻しで生じる一次焼戻し脆性を高温焼戻し脆性といい、300℃前後の温度に焼戻しした場合にみられる焼戻し脆性を低温焼戻し脆性という。 |
temper brittleness |
焼戻し割れ | 焼入れした鉄鋼を焼戻しする際、急熱、急冷又は組織変化のために生じる割れ。 | tempering crack |
テンパカラー | 焼戻しの際に鉄鋼の表面に現れる酸化膜の色。 | temper color |
時効硬化 | 急冷又は冷間加工した鉄鋼が時効によって硬化する現象。 | age hardening |
析出硬化 | 過飽和固溶体から炭化物、金属間化合物などの異相が析出するために起こる硬化。 | precipitation hardening |
復元 | 時効硬化した後に、時効温度よりやや高い温度に短時間加熱することによって、ほぼ時効前の性質に戻り、軟化する現象。 | reversion |
準安定オーステナイト |
オーステナイトが安定である温度範囲より低い温度で未変態のまま存在するオーステナイト。 過冷オーステナイトともいう。 |
metastable austenite |
残留オーステナイト | 焼入れされた鉄鋼の中で、オーステナイトの一部が未変態のまま残ったもの。 | retained austenite |
マルテンサイト |
オーステナイトを急冷した場合に、Ms点以下の温度で拡散を伴わずに変態して生じる組織。 元のオーステナイトと同じ化学組成を持つ体心正方晶又は体心立方晶の固溶体(α’又はαmと略記することがある。)である。 マルテンサイトは、オーステナイトの塑性変形によって生じることもある。 |
martensite |
焼戻しマルテンサイト |
焼戻しの第三段階直前(約250℃)まで焼戻しされたマルテンサイト組織。 広義では、マルテンサイトの焼戻し組織を総称していうこともある。 |
tempered martensite |
トルースタイト | マルテンサイトを焼戻ししたときに生じる組織で、光学顕微鏡では識別できないほどの微細なフェライトと炭化物からなる極めて腐食されやすい組織。 | troostite |
ソルバイト |
マルテンサイトをやや高い温度に焼戻しして粒上に析出成長した炭化物とフェライトの混合組織。 この場合の炭化物粒子は、約400倍の光学顕微鏡下で認められる。 |
sorbite |
ベイナイト |
オーステナイトの冷却変態生成物の一つで、パーライト生成温度とマルテンサイト生成温度(Ms点)との中間の温度範囲で生じたもの。 顕微鏡的にはパーライト生成温度近くで生じたものは羽毛状、マルテンサイト生成温度近くで生じたものは針状を示すことが多い。 前者を上部ベイナイト(upper bainite)、後者を下部ベイナイト(lower bainite)という。 |
bainite |
過飽和固溶体 |
その温度での平衡溶解度以上に溶質を固溶している固溶体。 普通温度からの急冷で得られる。 |
supersaturated solid solution |
焼入性曲線 |
焼入性試験方法(一端焼入方法)で求めた水冷端からの距離と硬さとの関係を表す曲線。 ジョミニー曲線ともいう。 |
hardenability curve, Jominy curve |
U曲線 | 鉄鋼の円柱状試料を作り、これを焼入れして横断面の硬さ分布を表面からの距離に対して表すときに得られるU字状の曲線 | U curve |
※双葉電子工業株式会社 プレート総合カタログ 設備用規格編 レッドブック<設備編>から抜粋