中小企業のDX クラウド導入、IT導入のポイント 第1回 中小企業のDXとは
今回より、税理士法人あすなろの税理士 菅沼先生に、中小企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するにはどのように取り組みを行えばよいか、ポイントなどの解説を全3回に渡り連載いただきます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
IT化やデジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)と言う言葉を聞くことが多くなっていますが、DXとはどのようなことを意味するのでしょうか。
DXは2004年スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、「人間生活のあらゆる面にデジタルテクノロジーやその影響によりもたらせる変化」を意味しており、経済産業省では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義しています。
もう少し簡単にDXの本質を定義すると「デジタルで変わること」と言うことができます。
経済産業省では、企業におけるDX推進を後押しすべく、企業内面への働きかけ(DX推進指標による自己診断の促進やベンチマークの提示)と、市場環境整備による企業外面からの働きかけ(デジタルガバナンス・コードやDX認定、DX銘柄によるステークホルダーとの対話の促進、市場からの評価等)の両面から政策を展開してきましたが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がDX推進指標の自己診断結果を収集し、2020年10月時点での企業約500社におけるDX推進への取組状況を分析した結果、実に全体の9割以上の企業がDXにまったく取り組めていない(DX未着手企業)レベルか、散発的な実施に留まっている(DX途上企業)状況であることが明らかになりました。
自己診断に至っていない企業がこの背後に数多く存在することを考えると、企業全体におけるDXへの取組は全く不十分なレベルにあると考えられました。
昨年からの新型コロナウイルスの影響により、企業は事業継続の危機にさらされ、DXの取組が進展するものと考えられていましたが、この結果は衝撃的なものでした。
従来からデジタル化、IT化の進展が規制改革とあいまって進められてきましたが、その進展は遅々としたものとなっており、新型コロナウイルスという大きな危機に直面して、急速にデジタル化の必要性が認識されるようになってきました。
感染拡大防止のため人との接触機会を減らすことが求められ、従来対面で行ってきた業務を非対面で行うことが必要とされ、集客によって利益を得るということが困難になりました。
押印、対面販売等これまで疑問を持たなかった企業文化、商習慣、決済プロセス等の変革が必要とされ、コロナ禍によって人々の固定観念は大きく変化し、デジタル化への対応は単なるコロナ環境下での一過性の代替策ではなく新たな価値を産み出してきています。
既に人々はその利便性に気付き、コロナ禍で大いに利用し、順応しています。そのような人々の動きや社会活動はもはやコロナ禍以前の状態には戻らないことを前提とすれば、人々の固定観念が変化している今、DXに取り組み、「2025年の崖」問題(「DXが進まなければ2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性も高い」と警告した内容のこと)の対処に向けて、企業文化を変革することが必要とされており、また、DXに取り組むためのある意味絶好(最後)の機会となってきています。
この変化への対応は、大企業だけではなく、中小企業にとっても例外なく求められてくるものです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)への取組
経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書」では、DXに取り組む「企業の経営・戦略の変革の方向性」として、1. コロナ禍を契機に企業が直ちに取り組むべきアクション、2. DX推進に向けた短期的対応、3. DX推進に向けた中長期的対応に分けて取組の説明がされており、対応する国の政策と今後の方向性について説明がされています。
まず、1. コロナ禍を契機に企業が直ちに取り組むべきアクションとしては、製品・サービスの導入による事業継続・DXのファーストステップとDXの認知・理解があげられており、ファーストステップとして「業務環境のオンライン化」「業務プロセスのデジタル化」「従業員の安全・健康管理のデジタル化」「顧客接点のデジタル化」があげられています。
次に2. DX推進に向けた短期的対応としては、DX推進体制の整備、DX戦略の策定、DX推進状況の把握があげられています。
DX戦略策定にあたっては、経営者は経営とITが表裏一体であるとの認識を持った上で「ビジョンや事業目的といった上位の目標の達成に向けて、デジタルを使いこなすことで経営の課題を解決するという視点」と「デジタルだからこそ可能になる新たなビジネスモデルを模索するという視点」の2つの視点に基づくことが必要となります。
しかし、DXについて「具体的に何をすればよいのかわからない」といった声もあるため、経済産業省では、DXの具体的な取組領域や、成功事例をパターン化し、企業において具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DX成功パターン」を策定することにしています。
DXの具体的なアクションを設計するためには、DXをDX(デジタルトランスフォーメーション)、デジタライゼーション、デジタイゼーションの3つの段階に分解することが必要とされています。
ここで「デジタイゼーション」は、アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化のことであり、典型的には、紙文書の電子化(ペーパーレス化)があげられます。顧客情報を活用しようとしたとしても手書きの情報では対応ができず、まずデータ化することが必要になります。製造業では、工程管理の見える化として、IoTツールを利用してデータ化を行うこと等があてはまります。「デジタライゼーション」は個別業務・プロセスのデジタル化であり、製造プロセスをIoTツールで収集したデータベースにより効率化を図ること等があてはまります。さらに、「デジタルトランスフォーメーション」は全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革することとなります。製造業では、製造プロセスのデータベースを出荷管理等に利用し、また、顧客データベースとクラウドにより全社で共有し、CRMに利用すること等が考えられます。また、出荷のタイミングを顧客視点からAIを利用して自動的に最適な時期とすることでデジタルデータ化から業務プロセスのデジタル化、DXへとアクション設計をすることができます。
最後に3. DX推進に向けた中長期的対応としては、「デジタルプラットフォームの形成」「産業変革のさらなる加速」「DX人材の確保」があげられています。経済産業省ではこれに対応するため、今後下記のような施策を行いDXを支援することにしています。
中小企業がDXに取り組む課題と対策
中小企業がDXに取り組む際に1.経営者・従業員のマインド、2.人材不足、3.必要なITツール、4.資金について課題となりますが、1.経営者・従業員のマインド(デジタル化についての経営者・従業員の理解や意識の不足)については、経営者自らが現状に危機感を持ち、社外との連携を図り、ゴールを決めロードマップを描くこと、従業員にはデジタル技術導入へ積極的に参画してもらうことで全社で認識を共有していくことが対策となります。次に2.人材不足(専門的な人材採用が困難)については、社内でデジタル化を推進する人材を育成することが対策となります。人材育成には時間がかかるため、長期のトライ&エラーの視点が必要ですが、社内環境の改善により対応を検討します。社内教育には無料でデジタルスキルを学習することができる経済産業省「巣ごもりDXステップ講座情報ナビ」等を利用するとよいでしょう。また、3.必要なITツールについては、まず、IT化が可能な業務全体について洗い出しを行い、どの業務を「見える化」「省力化・無人化」「業務効率化」ができるかを検討した上で、必要なITツールを選択することが対策となります。ITツールの選択には、中小機構の「ITプラットフォーム」やIT導入補助金の「ITツール活用事例」等を活用することができます。最後に4.資金については、IT導入補助金を始めとする各種助成金・支援金の活用を行うことが対策となります。生産性革命推進事業に係る補助金については、低感染リスク型ビジネスについて通常よりも高い補助率で補助を受けることができます。
ウェビナーを開催しています!
※ 図は、経済産業省「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書」
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-3.pdf
より引用しています
税理士法人あすなろ 菅沼 俊広 税理士業務の他ITコーディネータ等多数の資格を活用して民間企業・地方公共団体のIT調達、 略歴 「ビジュアル解説ITコーディネータテキスト(日本経済新聞社)」(共著) |