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設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性 第6回 プラスチックの熱特性(2)

全8回に渡って技術士の田口先生による連載「設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性」を掲載いたします。第6回は「プラスチックの熱特性(2)」です。

<目次>

  1. はじめに
  2. 線膨張係数
  3. 酸素指数(OI)
  4. UL94燃焼性試験

 

1.はじめに

今回は熱特性の2回目として、線膨張係数、酸素指数、UL94燃焼性試験について解説していきます。

2.線膨張係数※1

材料は温度が変化すると伸縮します。ほとんどの材料は、温度が上がると伸び、下がると縮みます。伸縮の大きさは線膨張係数αを使って表します。線膨張係数は材料の温度が1℃変化したときの単位長さの当たりの伸縮量のことです。図1の式で示すように、長さLの棒材の温度がΔT ℃変化すると、α∆TL伸縮することが分かります。単位は1⁄℃ですが、値が非常に小さいため、金属材料やセラミックスなどでは×10-6⁄℃、プラスチックでは×10-5⁄℃使って表すことが一般的です。金属材料とプラスチックの線膨張係数を比較する際に、単位を間違えやすいため注意が必要です。

図 1 線膨張係数

図2にプラスチックとその他の工業材料の線膨張係数を示します。まず、プラスチックの線膨張係数はその他の工業材料に比べると、非常に大きいことを覚えておいてください。金属材料と比べると1桁近く大きい場合もあります。ガラス繊維(GF)などで強化すると、線膨張係数は大きく低下します。一方で繊維の配向方向によって線膨張係数が異なる、すなわち異方性が大きくなりますので、注意が必要です。

図 2 プラスチックとその他の工業材料の線膨張係数※2

製品がどこにも拘束されていなければ、温度変化で伸縮してもあまり問題は起きません。しかし、多くの製品は複数の部品を接合して作られています。部品に使われる材料の線膨張係数が異なると、温度が変化したときに、伸縮量の違いが生じます。伸縮量の違いは、部品同士の拘束状況に応じて内部に応力を発生させます。このようにして生じる応力を熱応力といいます。熱応力は変形やクラック、塗装の剥がれなどの原因になります。特にプラスチックと金属材料のように線膨張係数が大きく異なる部品同士を接合する場合は、温度変化による問題が生じないか、十分な評価が必要です。また、プラスチック製品の寸法は、測定時の温度によって変化します。寸法精度がシビアな製品では、測定時の温度を明確に決めておかないとトラブルになることがあります。

3.酸素指数(OI)※3

プラスチックは主に炭素、水素、酸素からできているため、基本的によく燃えます。工業材料としては大きな欠点だといえます。したがって、着火源に接する可能性のある製品にプラスチックを使用する場合は、できるだけ燃えにくいものを選定する必要があります。プラスチックの燃えにくさを評価する指標が難燃性です。難燃性を評価する方法には様々なものがあります。本稿では酸素指数(OI:Oxygen Index)とUL94の燃焼性試験について解説します。

酸素指数は材料が燃焼し続けるのに必要な酸素濃度の最小値(単位は%)を示します。空気の酸素濃度は21%であることから、酸素濃度が22以下の場合は火炎を離しても自己消火しない可燃性物質、23~27の場合は火炎を離すとしばらくして自己消火する自己消火性物質、27以上は火炎を離すとすぐに自己消火する難燃性物資と分類することが一つの目安と考えることができます※4。ただし酸素指数では材料自身からの有炎滴下物の影響が評価できないため、実際の火災防止効果について判断するには十分ではありません。そのためプラスチックの難燃性を評価する指標としては、次項のUL94燃焼性試験を利用することが一般的です。

図 3 酸素指数(OI)※2

4.UL94 燃焼性試験

 難燃性を評価する指標で最も多く用いられるのがUL94の燃焼性試験です。材料自身の難燃性(燃焼性)に加え、滴下物による影響も考慮に入れた試験です。HBから5VAまでのランクがあり、5VAが最も燃えにくい材料です。HBは試験片の向きを水平方向に設置して試験を行います。それ以外のグレードは垂直方向に試験片を設置します。HBは一般に自己消火性がない材料です。製品によって要求される難燃性は異なるものの、V-0以上が難燃材料としての一つの目安になっています。難燃性は難燃剤を配合することによって、大きく向上させることが可能です。したがって、同じプラスチックでも難燃性の異なるグレードが品揃えされています。ただし、難燃剤とプラスチックの組合わせによっては、効果が得にくい場合があります。また、製品によっては特定の難燃剤が規制されている場合があるため注意が必要です。

図 4 UL94 燃焼性試験

 

次回(第7回)はプラスチックの応用特性として、粘弾性特性と劣化について解説します。

 

<参考資料>

※1 JIS K7197:1991 「プラスチックの熱機械分析による線膨張率試験方法」

※2 材料メーカーカタログ等より筆者作成。値は代表値を示す。グレード、試験条件等により変動する。

※3 JIS K7201-1~3:2021 「プラスチック-酸素指数による燃焼性の試験方法」 

※4 細貝亜樹、若月薫、中村祐二 「火災安全評価を目的とした材料燃焼性試験」 日本燃焼学会誌、 2014, 第56巻175号、47-58

 

田口技術士事務所 田口 宏之  

たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。

「製品設計知識」:https://seihin-sekkei.com

「製品設計知識 e-learning」:https://seihin-sekkei.teachable.com

 

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